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2013年3月20日水曜日

スウェーデン旅行記 Aug.2012 その第3回 壮大な祈りの場

今回からストックホルムにある建築を見ていきます。

とはいえ、スウェーデンには、建築ガイドなどに取り上げられている現代建築が少ないです。
デザインの国にしては意外。
スウェーデンの建築家といえば、アスプルンド(1885-1940)やストックホルム市庁舎を設計したエストべり(1866-1945)があげられますが、すこし前の世代ですし、世界的なビッグネームというほどではありません。アスプルムンドは北欧のモダニズムの父とも評されてはいますが、55歳で早世したためか作品が少ないこともあり、名前があまり知られていないかもしれません。
また、国としての特性もあります。第1回で書きましたが、スウェーデンは武装中立国として2度の大戦を経ているので、戦火を受けていない。従って古い建物が破壊されずに残っており、建替えすよりもそのまま利用している事例が多いので、現代建築は少ないともいえます。そのかわり再開発や内装を作り替えた建物などは日本の発想を遥かに超えたものがありました。順を追って見て行きます。まずは、建物ではなく「場」です。

世界遺産「森の墓」

Skogskyrtogarden「森の墓」と名付けられた施設を訪れました。http://www.skogskyrkogarden.se/en/
1915年に行われた設計コンペで、アスプルムンドとレヴェレンツ案が一等を獲得し、特にアスプルムンドは生涯をかけて実施設計を担当しました。
スウェーデン人は人は死ぬと森に還るのだと考えていて、もともと土葬の文化でしたが、墓地が将来的に不足するであろうという危惧への対策から、都市の辺境に火葬場を含む墓地を作ることが決められたのです。1940年まで長い時間をかけて建設され、その特異な存在は1994年に世界遺産に登録されたことを見ても理解できます。
そこはストックホルムの人たちが最後に行き着く場所であり、壮大な祈りの空間でありました。
我々は観光客として訪れたわけですが、ここを訪れる人たちは様々なシチュエーションにあることが想像されます。愛する家族を葬るため、その後の墓参のため、また葬儀への参列のため、更には自分の心を見つめ直すためなど。ここは、それら全てを受け入れてくれる、静かな、そして深く大きな場所でした。

世界遺産を示すプレートが入口にひっそりと掲げられています。

地下鉄で都心部から20分ほど。墓地専用の駅があります。死生観の違いか、暗い感じはありません。


配置図 広大な敷地です。

駅からのアプローチ。うっそうとした楓の並木の下を歩いていきます。人間の背丈より少し高いあたりで枝がきれいに剪定されていて、天空に蓋をされたような歩道です。ここもこれから出現していく空間のプロローグの役割を果たしていると思いました。冬は全く違う光景なのでしょう。

アプローチの歩道が唐突に切れると、空が開け、そこが苑の入口。敷地の北の端。既に見事な演出により日常に暮らす世界とは異なる世界に誘われていく。



苑内に入ると、芝生の敷き詰められた広大な丘が出現し、はるかかなたに巨大な十字架が屹立しています。

十字架は非常に大きいことがわかってきます。

入口に近い場所に聖職者達の墓が並ぶ。

十字架の高さはゆうに15mはあります。左の建物が火葬場。
この一本で、見渡す限りの地平に意味を与えてしまう造形。十字架は記憶の奥底から存在感を誇示する。

火葬場のホワイエ。奥が炉の扉。


ホワイエの天井の一部が劇的に切り取られ、象徴的な彫塑が配置されている。空間を覆う屋根は、まさしく我々が生きている世界を覆っている蓋であり、肉体を焼かれた魂が無限の天空に飛び立つ様を見ることができる。具象的ではあるが、微塵も陳腐さは感じない。森に還るというよりも異空間に解き放たれる感覚なのだろうか。しばし立ちつくし動けなかった。

森が迫る。帰ってこいと呼ばれている気もする。

木立の中に夥しい数の墓石が在った。全ての石は西を向いている。
All Saint Day にはこのような光の弔いがなされる。画像は借りてきました。



七井戸の小路と呼ばれる道を通り、遺族は「復活の礼拝堂」に向かう。

復活の礼拝堂

内部には入れなかったので、写真を借りてきました。レヴェレンツの設計による。

この丘は「瞑想の為の場所」と名付けられ、七井戸の小路のもう一方の端に位置しています。

苑内に彩りを加える花

花は生の象徴でもある


可憐な装い

「森の墓」を訪れ、建築を見るというより、深い体験をしたという印象が残った。といっても施設全体がモダンなデザインで統一され、何より神に近いような解放感を全身で感じることができるので、重さや暗さを払拭している。ともすれば重厚なストックホルム市街にあって、その意味でも異彩な空間である。

ストックホルム市立図書館

ストックホルム市街に生還し、もう一箇所アスプルンドの代表作を見ました。
1928年に竣工した市立図書館です。ストックホルム中心部の開放的な公園内、小高い地盤の上に建っています。造形と外壁の色彩が印象的な建物です。


建物名に設計者の名前が併記してあります。


立方体に筒を乗せた造形で、オレンジ色の外観です。
入口は黒い重厚な石で絞り込むような形になっている。階段の上に到達したときの劇的な視界の広がりを意識しているのであろう。「森の墓」に至るアプローチで閉塞感を強いる手法と似ている。写真は借りてきました。

巨大な筒状の大空間がいきなり現れる。周囲の壁は、そのまま天井まで図書の架台となっている。視界に入る書物の量に圧倒される。この溺れそうな感覚が、図書館の権威を高める役割を担っていると思った。天井からは特徴的な照明が下げられている。
この図書館は、東ドイツ生まれの美術家アンドレアス グルスキーの「図書館」という作品のモチーフにされている。グルスキーの作品は物や人が激しく集合しているような混沌を写真を基にまるでSF小説のように精密にフィクションに作り替えていくのであるが、これほどの本の集積が、グルスキーの創作意識を激しく刺激したに違いない。
http://en.wikipedia.org/wiki/Andreas_Gursky
 


全方向にハイサイドライトが切られ、天井自体を明るくしている。

書架に沿って通路が円周を回る。断面。

壁にかかる平面図

第3回は以上です。次回も建築系で行きます。